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「路地が子育てに向いている」というテーマで開発された中堂寺前田町の『あさひ長屋』。

すでに順調に入居者も集まっているようです。

今回は八清さんがすでに開発した『さらしや長屋』で暮らしているSさんに路地での暮らしについてお話しを伺ってみました。

同物件は同じように下京区にあり、路地奥の4軒長屋を改修したプロジェクトです。

同じように袋地の住戸を子育てというキーワードでプランニングしています。

こちらも住戸内だけではなく、路地空間も含めて事業計画が考えられています。

自分でイチから、こんな家を作るのは無理だと思った

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賃貸マンションで暮らしていたSさんは、子どもが小学校に上がるタイミングで、もう少し広い家に住み替えたいと新居を探し始めました。

物件情報を見ていて、偶然『さらしや長屋』のオープンハウスの情報に出会ったそうです。

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室内に差し込む光(Sさん提供)

「まず、第一印象として、こんなスペースは自分ではイチから作れないと思いました。

祖母の家がやはり町家なのですが、木のぬくもりが生かされた内装に郷愁を感じました。

しかも格子戸が美しいエントランスや木製のキッチンなどは、デザイン性が非常に高く、自分でリノベーションしようとしても、こんなに素敵な空間は作れないと思いました。

ここに住みたいと一目で心が惹かれました」

また『さらしや長屋』でも4軒分のテラスが長く続き、一体として計画されているので、自分の住戸だけでなく、全体としての建物の美しさもポイントだったそうです。

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黒板の壁で遊ぶ子どもたち(Sさん提供)

「また路地部分には、子どもたちが好きに落書きしてもいいお絵かきスペースがあります。

のびのびと落書きができるのは子どもたちにとっても楽しい時間です。

賃貸でこんなに考えられた物件は他にないと思い、すぐに入居を決めました」

「名前が付けられないスペース」が住み心地につながる設計

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『さらしや長屋』でも、各住戸の玄関はテラスに面しています。

昔の縁側のような存在がそのまま各住戸のエントランスになっているプランです。

「気に入っているのは、特に名前がつけられないようなスペースがあることです。

それが住み心地の良さにつながっている気がします。

この『テラスのような、エントランスのような場所』は、夏にはプールを出して子どもの遊び場になり、近所の人とのコミュニケーションの場にもなります」

また『あさひ長屋』でも同様ですが、各住戸の階段はスペースの割に幅広くとられています。

「単に上り下りをするだけではなく、子どもたちが階段に座って本を読んだり、大人は腰掛として利用したり、用途を超えて利用できるスペースがあります。

賃貸住宅でこのような工夫があるものは珍しいと思います」

内覧会に参加して、地域に受け入れられたと感じた

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内覧会の様子

またマンション住まいのときには経験できなかったような、ご近所とのおつきあいもできたそうです。

「オープンハウスに行った際に、ご近所の様子も担当の方に伺いました。

住み始めてご近所の方も新しく入居する私たちを地域で受け止めてくれていると感じました」

京都では町内会の活動がしっかり機能しているのも特徴ですが、マンション住まいのときより、ご近所とのつながりが大きくなったそうです。

「入居してから自然と町内会の活動にも参加するようになりました。

もとから住んでいたご近所の方たちに教えてもらいながら少しずつ役割に加わるようになりました。

子育ても一人でしているのではなく、周りの方になんとなく見守られながらできるので、マンションに住んでいたときよりストレスがありません」

お互いさま、と思える文化が生まれる長屋文化

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取材は『あさひ長屋』にて

Sさんが『さらしや長屋』に入居したのは2017年、その後2020年に始まったコロナの間もここで子育てをされたそうです。

「子どもたちも外で遊べないとストレスが溜まりますが、路地があることで適度な解放感を感じながら過ごすことができました。

たとえば子どもが跳ねたり跳んだり、あるいは泣き出した時も、お互いさまという気持ちで受け止めてもらえる気がします」

また、『さらしや長屋』のある晒屋町路地は、災害時に町内の避難場所としても活躍するそうです。

植物をからませるパーゴラは、開閉できるシートがついていて雨風をしのぐスペースになり、共有雨水タンクは水撒きだけでなく、災害時にはトイレや掃除、手洗いなどに使えるように用意されています。

創意工夫したリノベーションで建物が生まれ変わり、新しい住人が増え、町内に必要とされる施設を作ることで、長屋ならではの暮らし方に貢献しているのではないでしょうか。

また『さらしや長屋』も子育て世帯を応援するため、子育て中の家庭は賃料が安くなるという家賃システムを設けているそうです。

「晒屋町路地は入口の扉をリノベーション後もそのまま残しています。

そのため用事のない人は立ち入ることはありません。

中に入ると顔見知りの人しかいないので、子どもも安心して遊んでいます。

自分の家族だけでなく近所の人たちに見守られながら育つのはいいことだと思います」

路地は、緊急車両が通行できないなど安全面や防災面、また市街地の土地を有効活用するための効率面、さまざまな視点から消えていく状況です。

しかし、そのような開発効率や機能向上だけで、路地を消滅させてよいかは疑問です。

地元の人が大切にしてきたコミュニティ、一度壊してしまうとなくなってしまうまち並み、それらとうまく融合しながら、大切に手を入れていく方法はきっと、いろいろな場所で必要とされていくと思います。

中堂寺前田町路地再生プロジェクト

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再建築不可の袋路2本を繋ぎ、特例許可の手続きを行い、新しく子育て支援住環境を整備するプロジェクト。長い間放置されていた空き地に、2方向避難などの安全性を確保し新築しました。

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プロジェクトページ

路地再生 さらしや長屋

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地域のコミュニティ活性化と子供の遊び場になる路地再生を試みたリノベーション賃貸町家。京都市の空き家活用×まちづくりモデルプロジェクトに選ばれました。

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