まちを見渡せば様々な建物がある中で、京町家の魅力に虜だった八清ですが、中古ビルのおもしろさにも着目しはじめ、ビル好きが集まる「八清ビル部」を有志で結成しました。
そんな「八清ビル部」がおもしろいと思うビルを紹介する記事企画「ビルまにあ」では、ビル活用や建物の魅力を深堀し、みなさんをおもしろビルの世界へ誘います。
その第一弾は京都の文化の中心地・三条通。
その御幸町角に、ひときわ異彩を放つ建物があります。
名を1928ビル。
アール・デコの影響を色濃く感じさせる外観が印象的です。
アール・デコ建築に息づく100年の歩み
1928ビルが誕生したのは、その名の通り1928年。
元々は毎日新聞社の京都支局として建てられたそうです。
設計を手がけたのは、「関西建築界の父」と称される武田五一氏。
近隣にある京都市役所本庁舎やフォーチュンガーデン京都(旧島津製作所本社ビル)も彼の監修ですね。特徴的な星形の窓やバルコニー、ランプなど、随所にアール・デコの影響が見られます。
印象的な星型の窓は、毎日新聞の当時の社章を象ったものなのだとか。
また、屋根の上にポールが取り付けられているのが分かるでしょうか。
これは昔、町内の方々へ天気予報を知らせる旗を挿していたスタンドなのだとか!
ラジオ・テレビが普及するまで日本各地で使われていた手法だそうで、意外なところにまで歴史の痕跡を感じることができます。
解体の危機を乗り越え...
1998年に新聞社が移転後、建物の老朽化のため解体の話が浮上。
そこで、後述の「同時代ギャラリー」のスタッフ・アーティストの方々が中心となり、文化発信の拠点としてリノベーションを推進したのだとか。
そうして創建当時の姿を残し保存され、現在では、B1Fにレストラン「アンデパンダン」、1Fにアパレルショップ「HUMAN MADE1928」、2Fに大型画廊「同時代ギャラリー」、3Fには劇場「ギア(GEAR)」が入るエンターテイメント施設となっています。
以前はラジオの放送局(ラジオカフェ)・レコードショップなども入居していたそうで、どの時代も五感に訴えかける様々なカルチャーが集まるビルとして、そして歴史的建造物として、訪れる人々に多様な文化体験を提供しています。
アートと100年の歴史が響きあう「同時代ギャラリー」
2Fには「同時代性」をキーワードに、アートファンはもちろん、普段はアートに触れない方でも気軽に現代美術を楽しめる場所として、1996年に誕生した「同時代ギャラリー」があります。
総面積約195.6㎡の広さを誇り、京都市内中心部では珍しい大型のギャラリーです。
展示室内には直径80cmの円柱・木製の床タイル・大窓・アール型の天井など、創建当時そのままの姿が残されています。
100年の歴史ある空間が醸し出す重みと、展示作品の世界観が響きあい、他にはない特別な空気が生まれる...。
その雰囲気に魅せられて、出展を決める作家さんも多いのだそうです。
展示室Aでは、可動式の白壁以外はほとんどが創建当時のまま。
円柱や垂れ壁が、まるで額縁のように作品を引き立てています。
絵画や立体作品のみならず、写真・ハンドクラフト・ライブペインティング等、ジャンルを問わず幅広い展示が行われるのだそうです。
アールが採用された個性的な天井。
細部の意匠にまで当時の美意識が息づいています。
美術館においては一定の基準に基づいて展示作品が選ばれることもありますが、同時代ギャラリーでは厳密な選定基準は設けず、様々な表現が歓迎されています。
絵画や立体作品のみならず、ポートレート・ハンドクラフト・ライブペインティング等、ジャンルを問わず幅広い展示が行われるそうです。
いつの時代も創造力の源泉として存在し、新世代の作家を育む場所であり続けています。
現在と過去が境界線なく溶け合うレストラン「アンデパンダン」
地下へと続く薄明かりの階段を少しドキドキしながら降りると、レストラン「INDÉPENDANTS(アンデパンダン)」があります。
長年廃墟同然だった地階を、創建当時の姿を残しつつ1998年に復元させたアンデパンダンでは、食事やお酒とともに、不定期でミュージシャンのライブを楽しむこともできます。
時を超えて1928年の趣を残す個性的な天窓・剥がれた壁画・そして秦山タイル※の装飾。それらが柔らかな光に照らされて浮かび上がる、まさに隠れ家といった雰囲気のレストランです。
秦山タイルはひとつひとつ手作業で作られており、形も表情もすべて異なります。
腰壁のタイルは、壁面中央に向かって色が深まるよう計算し生産され、施工されているのだとか。
また、新聞社時代のテーブルを再利用していたりと、空間のいたるところに歴史が息づいています。
※1917~1973年頃、泰山製陶所によって作られた京都産の建築用タイルで、国内の歴史的建造物にも多く用いられています
壁のカーブに沿ったタイルワークは、精緻を極めつつもどこか手作りのあたたかさを感じます。
かつてこの空間は進駐軍によって占拠され、バーやダンスホールとして利用されていた頃もあったそうです。
当時のアメリカ兵による落書きも、今なお残されているのだとか。
その一方で、現代のアーティストによる作品や家具があちこちに飾られ、床には創建当時のタイル装飾と、近代のタイル装飾が違和感なく混ざり合っています。
現在と過去が境界線なく溶け合い、ひとつの唯一無二な空間を生み出しているのが、このレストランの類を見ない特徴です。
創建当時のタイル装飾(奥側)と、美大生による近代のタイル装飾(手前側)。
異なる時代背景を持つものたちが、自然に調和しています。
ひとつの世界観に浸れる場所
1928ビルでは、ギアを観劇後、ギャラリー鑑賞や物販の購入、レストランで食事を楽しむ...といったような、ビル内を回遊するひとつの流れが自然に生まれているそうです。
各施設は別々のフロアにありますが、同じ建物の中で〝100年の歴史〟と〝文化を発信する〟というコンセプトを共有しているからこそ、このような回遊性が生まれるのかもしれません。
各施設の個性を感じつつも、時を超えるかのような、ひとつの世界観に浸れる体験。
そして、未だ見ぬカルチャーとの思いがけない出会い。それが、1928ビルの魅力なのかもしれませんね。
からあげプレートもお忘れなく!
アンデパンダンのランチで一番人気の、からあげプレートをいただいてみました。
サクッと香ばしい衣に、2種の自家製ダレが絡んだジューシーな逸品。
文化体験のしめくくりに、ぜひ味わってみてください!
同時代ギャラリー
レストラン「アンデパンダン」
1928ビル
八清ビル部

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