京都の不動産投資を語る 希家おくべし<第10話>再建築不可物件の魅力と経済面の特徴(後編)

不動産とファイナンス

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【目次】クリックするとジャンプします

1.はじめに

2.再建築不可物件の流通価格を深掘りする

3.再建築不可と再建築可能物件の流通価格の違い

4. まとめ

5. さいごに

6. 関連記事リンク(あわせて読みたい!)

1.はじめに

少し時間が経ってしまいましたが、本稿では前回<第9話>に続き「再建築不可物件の魅力と経済面の特徴」についてお伝えしていきます。

ポイントは理解をしてもらえたかと思っておりますが、今回は京都市内における再建築不可物件の価格面をもう少し深堀して、流通価格の傾向について分析します。

再建築不可=売れない欠陥物件、資産にはならないというイメージを払拭できればと考えております。

2.再建築不可物件の流通価格を深掘りする

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この章では再建築不可物件の流通価格について深掘りします。

ポイントは4つです。

①半値9掛け

②流通価格の考え方

③在来と伝統にわける

④流通価格が受ける影響

① 半値9掛け

一般的に再建築不可物件の土地の評価は半値9掛けが良いと言われます。

再建築可能な物件の標準的な敷地の取引相場の0.5×0.9=0.45ぐらいの価値であるという意味です。

大雑把な計算ですが、概算評価としては分かりやすい指標です。

大型物件や郊外型物件ではさらに割引が必要になります。

融資が使いにくいところでの影響です。

② 流通価格の考え方

再建築不可物件の価格は取引事例法による評価モデルとして流動性比率を用いた以下の数式で表現できます。

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流動性比率とは土地+建物の価格で不動産市場に売りに出したときの売れやすさを考慮した補正係数で、通常0.8~1.1あたりの数字で価格の最終調整を行います。

例えば、評価する物件が再建築不可で住宅ローンが全く適用できない場合、現金で購入できる方でしか購入できない事になるので低い補正係数を採用する事が多いです。

議論を簡素化するため流動性比率を無視すると、再建築不可物件の理論上の土地流通単価は、成約価格から原価的に導いた建物評価を差し引き、敷地面積で割ることで算出できます。

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八清の扱う再建築不可物件の成約価格データから逆算で土地流通単価を算出すると、再建築可能な物件で標準的な接道条件(20坪程度の整形地、幅員4m程度、間口5m程度、間口奥行比1:3程度)の土地取引単価の30~60%の範囲に収まる事が多いようです。

道路の幅員が狭い敷地条件では土地の評価は低くなりますが、再建築不可物件の敷地は同様もしくはさらに低い評価となる傾向です。

次に建物評価ですが、再建築不可物件の建築費は工事車両が敷地の前面に侵入できないことが多いため、通常の接道義務を満たしている物件の工事費よりも割高になる傾向があります。

特に解体、資材の運搬というところで余分な手間がかかり、接道している物件と比べると平均で約20%程度、建築費が高い傾向があります。この仮説を一旦適用してカテゴリーごとの価格検証も行います。

価格の試算を行いました。次の表1をご覧ください。

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上記のような土地流通単価と工事単価の事情を加え、さまざまな立地で、細街路(幅員4m以下の二項道路)に面した再建築可能物件と、路地のみに面した再建築不可物件の二つを、地価や建物価格を仮定して価格の比率をだしたものです。

(路地奥の再建築不可物件の価格÷細街路に面した再建築可能物件の価格で算出。

土地単価は標準的幅員(4m以上)がある接道物件を100%としたとき路地奥にある再建築不可物件45%、細街路の接道物件60%、路地奥や細街路の接道物件の建物単価を標準的幅員のある接道物件の1.2倍と仮定して試算しています。)

この表の再建築不可物件の価格に関しては、流動性の低さの評価を一旦無視した金額ではありますが、郊外になればなるほど、再建築のできる細街路物件との価格差がなくなるという結果になっており、後の考察に用います。

③ 在来建築と伝統建築

昭和25年を境にいつ建てられたかを目安として分類しております。

昭和25年以前は伝統建築であり、既存不適格であることを証明できれば再建築不可物件であっても住宅ローンやセカンドハウスローンなどが適用可能になります。

その一方で昭和26年以降の再建築不可物件は違反建築であることが多くなります。

金融機関はコンプライアンス重視の姿勢から違反建築物件に対しては融資を提供しない可能性が強くなります。

④ 流通価格が決まる要因

実際のところ再建築不可物件の流通価格は「収益性」「資産性」「物件の魅力」「商品性」「融資」の影響を受けます。

再建築不可物件でも高い価格で流通するという現象は「資産性」「収益性」さらには「京都らしい立地」にあり、建物の価値や希少性が日本・海外の顧客に認められる「京町家」だからこその評価という側面もあるのかもしれません。

立地や建物に特別な魅力がない在来建築では、良い立地に安く住める、もしくは大きな建物に安く住めるという割安さをユーザーに訴求するしかなくなります。

また上でも触れましたが在来建築の再建築不可物件の大半は違反建築になります。

違反建築では一般的なパッケージ型の住宅ローンが組めないことから、親からの贈与や金利の高いローン、無担保の融資を頼るしかなくなります。

4つのポイントから考察

前述の4つのポイントから考えると、特徴に乏しい在来建築の再建築不可物件は再建築可能な物件と比べてさらに価格差が広がります。

表1の試算結果では、立地が街中であろうと郊外であろうと、再建築可能物件と再建築不可物件の価格に差がない結果になっていますが、これら4つのポイントから考えると、郊外であればあるほど、再建築不可物件の土地単価は基準となる相場よりも相対的に安くならないといけないことになります。

融資が通らない違反建築物件の場合、この価格差が顕著になるはずです。

再建築不可価格指数

次は、これら4つのポイントから類推し、再建築不可の価格がどのような水準で成約していくのか、皆さんが理解しやすくなるよう再建築不可と再建築可能な物件との価格比率を再建築不可価格指数として定義します。

数式を定義するとこのようなイメージです。

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これは、再建築可能な物件で道路幅員/敷地条件/建物条件に大きな差異がないと仮定し、再建築不可物件の価格を分子とし、再建築可能物件の価格を分母にした時の比率になります。

3.再建築不可と再建築可能物件の流通価格の違い

第2章を踏まえつつ、ここでは再建築不可物件を6つのカテゴリーに類型化し、各エリアでの目安となる再建築不可価格指数を仮説から類推します。

さらに各カテゴリーでの価格形成要因、すなわち再建築可能物件と再建築不可物件との価格差が実際に不動産市場の中でどのように形成されるかを説明していきます。

その根拠となるのは弊社の過去15年の再建築不可物件を含む不動産取引の積み上げによる統計データと価格決定要因となるファクターの有無/多寡などです。

まず伝統建築と在来建築物件で2系統に分けます。さらにエリアでは京都市の中心市街地、郊外住宅地、山間エリアおよび田舎街の3系統について分類し、合計2×3=6種類で分析します。

6つのカテゴリーは以下のとおりです、イラストの表をごらんください。

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3.1.カテゴリーA 伝統建築物件

A1 京町家(中心市街地型)

A2 古民家(郊外住宅地型)

A3 古民家(山間エリア型、田舎型)

の3つについて説明していきます。



A1京町家(中心市街地型)


まずはA1中心市街地にある再建築不可の伝統建築(京町家)です。

再建築不可価格指数は90~99%と分析しております。

A1グループの顧客は京町家を購入する事を目的にしており、建て替えを期待していないケースが大半であること、また別荘や投資が目的であれば、価格における土地部分の比重が低い事や、路地上の京町家であり車が通れないことが、かえって好都合と歓迎されることが多いです。

以上のことから再建築不可物件の購入に対しては前向きな方が多く、再建築可能物件との価格差を強く意識されない傾向にあります。

京町家の証明書があることで実需目的の方は特定の銀行で融資を組むことが可能になり再建築不可価格指数は95~99%とさらに高くなります。

なお、京町家証明書(特に簡易な手続きで取れる、京都市の外郭団体が発行する「京町家プロフィール」)発行においては、認定にあたり外観からの判断が重要になることから、再建築不可の京町家は京町家らしい外観上の特徴を有したリノベーションにしたほうが資産価値上は良いと言えます。



A2古民家(郊外住宅地型)


次にA2古民家(郊外住宅地型)です。

A2グループは立地が郊外型住宅地にある古民家物件(伝統建築)が対象です。

このグループではセカンドハウスや投資ニーズは相対的に少なく、居住ニーズの割合が多くなります。

容積率の利用効率が悪い物件(※<第4話>京町家投資のススメ②~京町家の収益性~)の再建築不可指数は相対的に低くなり、再建築可能物件との価格差が大きくなる傾向となります。

京町家証明書がない場合の再建築不可指数は80~95%と分析しました。

住宅ローンの適用の有無が京町家証明書(京町家カルテ、京町家プロフィール、京建物カルテ)の有無で決まり、住宅ローンが適用できない(金利の高いローンはありますが)ことは実需での潜在的な需要の差があり流通価格の差に繋がります。

下限は80%としました。

融資が組めなくても京町家リノベーションとしての完成度が高ければ現金で購入する方が多いのと、総額が安くなれば購入しやすくなることと、収益性/資産性の魅力が増すのがメリットです。

京町家の証明書がある場合、実需目的の方は特定の銀行で融資を組むことが可能になり、再建築不可価格指数は90~99%と高くなります。



A3古民家(山間エリア、田舎街)



次にA3古民家(山間エリア、田舎街)です。

再建築不可指数は約80%以下と分析しました。

A3グループは住宅でもセカンドハウスであっても趣味嗜好の世界であるので、基本的には流通しにくいと考えておくべきです。

流通する条件としては、敷地/建物ともに十分な面積があり、ロケーションに魅力がある場合に限られます。

物件から離れた場所にでも駐車ができれば流通の可能性は有りと言えます。

郊外の古民家を住まいとして求める場合、解放感や自然の豊かさ、家庭菜園やバーベキュー、屋内での薪ストーブなど都市型での住宅では成しえない暮らし方への期待値が高いです。

景観や眺望が良いなど非日常性がある場合は高い価値がつくケースもありますが、敷地には価値はないと考えておくのが合理的です。



3.2カテゴリーB 在来建築物件



次に京町家の年代よりも新しい在来建築の再建築不可物件では価格はどういった傾向を示すのでしょうか。

B1 在来建築(中心市街地型)

B2 在来建築(郊外住宅地型)

B3 在来建築(山間エリア型、田舎型)

の3つについて説明していきます。

伝統建築物の再建築不可物件と在来建築の再建築不可物件との違いでまずご理解頂きたいのは、伝統建築物は既存不適格(但し全てでない)となる可能性があるが、在来建築は違反建築であるケースが大半であるという事です。

違反建築では特別なローンを除き銀行からの融資は出してもらえません。

このことが流通価格に大きな影響を及ぼします。



B1在来建築(市街地型)



次にB1在来建築(市街地型)です。

再建築不可価格指数は75~90%と分析しました。

市街地型では建蔽率や容積率を超過した再建築不可物件が大半になります。

再建築不可物件を買うメリットは安いコストで大きな家を手に入れられる経済性と収益性、資産性のみになります。

立地やスケールの問題から収益的・資産的メリットが期待できない場合は、経済性のみになります。

立地がよくて収益性があり、敷地に対して容積率を目一杯使っているような物件は高い価格で成約する傾向があります。

もちろん家の魅力や間取りありきですが、価格指数は90%に近い側で成約しています。

再建築可能な物件の流通価格の3/4程度で買えるというところを再建築不可価格指数の予測の下限値にしております。

ただし、100坪以上の敷地があるなど極端に大きい物件は前提としておりません。



B2在来建築(郊外住宅地型)



B2在来建築(郊外住宅地型)です。再建築不可価格指数は60~80%と分析しました。

そもそも価格の構成比は土地<建物となりやすい立地であり、価格的メリットが必要になることから再建築不可の土地の価値は郊外になればなるほど、ニーズから離れるほど0に限りなく収束していきます。

郊外でも駅近物件や街に魅力がある物件であり、容積の利用効率が高い物件は比較的高い価格で成約し、価格指数は80%に近い側で成約していくでしょう。

基本的ニーズとして非日常性や環境面を評価されて売れることもありますが、イレギュラーなケースです。

郊外型×在来建築×再建築不可(違反建築)では特に価格が2500万円を超える物件は流通しにくいと考えておくべきです



B3在来建築(山間エリア型、田舎街)



最後にB3在来建築(山間エリア型、田舎街)です。

再建築不可価格指数は敢えて不明としております。

B3グループは田舎にある在来建築物件のケースについてですが、流通しにくい(特別な魅力といったような特殊性がある場合のみ)と分析しております。

土地が有りあまる京都市内の山間エリアや田舎では再建築不可物件は基本的に流通しにくいと考えておく方が望ましいです。

流通する可能性がある物件は眺望が良かったり、川や海に面している、広大な敷地や山がついていたりといった特殊な魅力、非日常性がある物件と激安物件に限られます

500万円以下で住めるコンディションの良い激安の再建築不可物件は、別荘や二拠点居住の候補地としてだけでなく、戸建投資物件としても流通する可能性はあります

再建築可能な物件でも建物が古ければ100万円以下の売り物がたくさんあるこのご時世です。

田舎の再建築不可物件の場合、土地の価値はほぼ0と考えておいた方が良いのと、建物が老朽化している場合、大規模に改修しても1000万円を超えてしまうと再販売が難しくなるので注意する方が良いでしょう。



4.まとめ

2章では再建築不可物件の流通価格を4つのポイントで深堀りし、3章では京都のエリア分類と建物分類で6つのカテゴリーに分けて再建築不可価格指数を分析致しました。

こちらの表に結論をまとめています。

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京町家の再建築不可物件(京町家証明書なしの場合)は建替えを期待されての購入ではないケースが大半です。

そのため、同じ敷地条件での再建築可能な物件の流通価格の80~95%程度、さらに京町家証明書がある物件では京町家ローンの融資条件が整えば、再建築可能な物件と変わらない価格水準で流通する可能性が高いという分析結果になります。

在来建築の再建築不可物件は概ね同じ道路条件/敷地条件下における再建築可能物件の流通価格に比べて、2割程度は安くないと流通しにくいと言えますが、郊外や田舎では車が置ける条件+特別な魅力がなければ反響が得られない可能性もあります。

住宅ローンが適用し難いことで流通する不動産の総額にも限界が出てきます。

京都市郊外で在来建築かつ再建築不可物件の購入は、基本的には2500万円を上限に考えましょう。

田舎型物件の購入は土地・建物のサイズ、魅力次第というところになりますが、駐車場がない物件は基本的には流通しにくく、それを補うだけの魅力があるのか十分に吟味して頂く必要があります。

建物に特色のない在来住宅の再建築不可物件ではなおさらです。

実際のところ八清で扱う物件の3~4割が京都市内にある再建築不可物件ですが、その大半が京都らしい立地にあり、収益性や資産性が比較的高い物件が多く、融資が利きにくい流通上の弱点を補完しています

こちらの表3をご覧ください。

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第8話のリセールバリューの記事でも解説しましたが、八清が京都らしい物件を売買する場合は再建築不可でもリセールバリューは高くなる傾向があります。

5.さいごに

本稿では、再建築不可物件の価格傾向について立地、建物種類により6つに類型化して解説しました。

再建築不可物件でもその種類によって価格の特性が大きく異なることがご理解頂けましたでしょうか?

再建築不可物件であっても、実際に八清では得意な京都の旧市街地や山間エリアにあり建物に魅力があれば売買でも賃貸でも他社よりも高い価格で成約させておりますし、リセールバリューについても大きく値下がりせずに売れることを実証しております。

ですので、西村としてはお客様が京都で初めて住宅を購入される場合、住宅、別荘、投資のどれでもニーズがあるような再建築不可物件を購入頂き、資産として保有されることをお勧めします。

そうすることで、今後のライフステージの変化柔軟に「住む」「売る」「貸す」などの対応ができ堅実な資産形成につながります。

住宅の資産と収益物件としての判断の一助になれば幸いです。

次回は、なぜ路地奥や再建築不可の住宅の資産になるのか? リノベーションと再建築不可、細街路の特性を活かした節税投資の考え方を次回第11回でご紹介します。

お楽しみに!

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この記事を書いた人西村 直己
西村 直己
跡取りとして修行中の彼は、自他ともに認める八清随一のエコノミスト。近頃はもっぱら社内改革に勤しみ、さまざまな案件を論理的に分析し、皆を力強く先導する。食事を科学し健康にこだわる彼は3人の愛娘にメロメロ♪

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