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今回は箱根、伊豆へ気になる建築物を巡る研修に行ってきました。

箱根と伊豆の共通点は「自然が豊かであること」。

「建築がどのように自然と共生しているのか」、「自然の中にどのような建築物があるのか」をテーマに様々な建築をレポートいたします。

大人の秘密基地「箱根本箱」

一泊目は以前から気になっていた箱根本箱に宿泊しました。

SNSで見かけてから、ずっと行ってみたいと思っていた場所です。

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元々は日本出版販売の保養所だった施設をフルリノベーションしてできたブックホテルで、2019年グッドデザイン賞ベスト100も受賞されています。

入口の扉が開くとロビーを囲むように本棚があり、なんとも落ち着いたその空間に癒されました。

本の種類は本当に多種多様で、約1万2千冊もの書籍があり、これらの本は実際に購入できることも大きな魅力です。

廊下やカフェスペースなど、いたるところに本が並べられ、一日中飽きることなく楽しめます。

本棚には秘密基地のように人が入れるスペースもあり、ロビーや部屋で読むことはもちろん、その中で読むこともできて、なんとも遊び心があって面白いと思いました。

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2日目の朝、早起きしてまたロビーへ足を運び、いくつか自分の好きな気になる本をピックアップして2階のカフェスペースで時間を過ごしました。

まだ人は少なく静かで、ゆったりと本を読むことができました。

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奥の大きな窓からの景色はとても綺麗で、箱根の自然を存分に楽しめます。

また本はジャンル別に分けて置かれており、シアタールームの前には映画関連の本、温泉の大浴場入口にはアロマテラピーやリラクゼーションの本など見たことがない本もたくさんありました。

まるで宝探しのように歩き回りたくなります。

読んだことのない本を手に取り、慌ただしい現実から離れて読書に耽る時間はとても贅沢で、実生活にもこのような時間を取っていくのは大事だなあ...と感じました。

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部屋に入って驚いたのは、テレビが設置されていないことです。

その代わりに数冊の雑誌や小説が置かれていました。

どこまでも本を楽しむために作られた空間に圧巻でした。

窓の外には温泉が堪能できる湯舟があり、大自然の中でゆったりお風呂を楽しめます。

自然と美術の共生「ポーラ美術館」

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ポーラ美術館を訪問しました。

この美術館はポーラ・オルビスグループの元オーナーが収集したコレクションを展示した美術館で、モネやルノワールなど印象派の作品を中心に、国内外の名作を保有しています。

建築物としても有名で、「箱根の自然と美術の共生」というコンセプトのもと、箱根の森にとけこむよう景観に配慮しているところが特徴です。

美術館入口から見えるのはほぼガラスの屋根のみで、建物のほとんどは地下に埋まっています。

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入口を抜けると、エスカレーターから下に建物全体を見渡せる吹抜空間となっています。

大部分が地下ですが大きな窓や天井のガラスがあり自然の光が入ってくるため、閉塞感はありませんでした。

エントランスからエスカレーターで1Fへ降りると、受付があり受付横窓の外で犬の彫刻が迎えてくれます。

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この彫刻は「しあわせな犬」というタイトルで、アーティストとして活躍するとともに、動物の保護活動にも携わるniŭ(にゅう)による彫刻作品で、石垣島の保護犬を基に造られたそうです。

エスカレーターに乗る来館者の目を奪うこの巨大なネオン作品は、イギリスを代表するアーティストのひとり、ケリス・ウィン・エヴァンスによって作られ、実際にこのように吊り下げるためのワイヤーを人の手で取りつけられたそうです。

ロビーの吹き抜けの天井高が約16メートルもあるため、特別な足場を組む設営が必要になったことや作品を吊り下げるためのワイヤーと高電圧ケーブルが触れ合わないようにすることなど、展示には多くの苦労があったとのこと。

展示をいくつか堪能した後、美術館裏にある遊歩道へ行きました。

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美術館をあらためて外側から見てみると、建物はすり鉢状になっており、周囲の木々の高さを超えないように設計されています。

また、すり鉢状の底部分には免震ゴムやオイルダンパーが設置されており、この免震構造によって、建築を浮かせ、人と美術品を地震から守っています。

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さらに建物と地面が直接触れないこの構造は、湿気や虫害の影響を抑えることにもつながっているそうです。

建物の奥には自然豊かな遊歩道があります。

富士箱根伊豆国立公園内にあるという立地を最大限に生かしたこの全長約1kmの遊歩道にもさまざまな彫刻作品が展示されており、最後まで楽しむことができました。

中伊豆のお宿「鬼の栖」

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3日目、箱根から伊豆へ移動しました。

今回は伊豆の中でも「伊豆の小京都」とも呼ばれている情緒ある雰囲気が残る修善寺エリアを訪れ、「鬼の栖」という宿に宿泊しました。

こちらで楽しみにしていたのは、数寄屋造りのお部屋と日本庭園です。

瀬戸内寂聴の著書「鬼の栖」を基に命名されたそうです。

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和室からは奥に広がる日本庭園を眺めることができ、丸く縁どられた窓もなんとも良かったです。

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庭の周りには数寄屋造りの和風建築が広がり、のどかな光景を堪能することができました。

全室離れ形式のため、他の宿泊者の音などは一切聞こえず静かな空間に癒されました。

ここに宿泊していて気になったのは、客室の名前がすべて京都の地名になっていること。

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もう京都に住み始めて10年目に入った私ですが、他の地で「下鴨」や「清水」など馴染みのある地名を目にし、なんともほっこりしました。

宿の方にお話しを伺うと、やはり修善寺が「伊豆の小京都」と呼ばれることもあり、京都の旅館のような雰囲気を演出しているそうです。

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「小京都」という言葉をネットで検索してみると、伊豆だけではなく全国各地にそのような場所があることが分かりました。

室町時代以降に、地方の大名が京都を真似たまちづくりをしたことで生まれた場合が多いようです。

京都という場所自体に他の地域とは異なるアイデンティティがあることをあらためて感じ、より京都が好きになりました。

最後に

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今回の出張研修を通して、普段は見ることのできないたくさんの建築物を見ることができました。

箱根、伊豆の研修の旅はご紹介した3か所とも一貫してやはり「自然」が魅力であると感じました。

建物と自然をどのように組み合わせるのか、どのように見せるのかをよく考えられており、それは京都のまち並みにも通じるところがあるのではないかと思いました。

また、京都にずっといると、慣れが生じて京都の良さや魅力を忘れてしまいます。

他の場所でいろんな体験をしたり、その地ならではのものを見たりすることで「京都らしさ」を改めて感じ、外国人のお客様に京都の魅力を伝えるときに活かしていこうと思いました。

今回の出張研修を通して、見たことのない建物への知見を深められたことももちろんですが、京都のまちや町家の魅力を再認識できる良い機会であったのかなと思います。