コラム不動産投資が文化保全の一助に

不動産投資の目的は人によって様々です。例えば安定したキャッシュフローの確保やインフレ対策、老後の生活資金の確保や相続税対策など多岐にわたります。そんな十人十色の目的に社会的意義を付加できるというお話です。

1.戸建賃貸の需要の高さ

賃貸住宅にはマンションやアパート、戸建て住宅などの種類がありますが、それらの供給量と需要量に大きな差があることをご存知でしょうか。

まずはLIFULL HOME'S(ホームズ)に掲載されている京都市内の賃貸住宅とその中の戸建賃貸の割合を調べてみました。京都市における賃貸募集中の物件(2025/5/20時点)は59,205件が掲載されており、そのうち戸建賃貸物件は1,544件で、戸建賃貸物件は全体の2.61%(1,544件)しかありません。さらにそこから状態が良いと考えられる築10年以内の物件は0.18%(108件)しかありません。

次に全国宅建物取引業協会連合会の『2024 住宅居住白書』より、希望する居住形態および建物の種類を調べてみたところ、賃貸かつ戸建派の割合は2.3%という結果があります。これを2024年の京都市内への転入者数(86,968人)と組み合わせると、約2,000人の方が賃貸かつ戸建派であると想定することができます。

すなわち、仮にこの2,000人の方が状態のよい戸建賃貸を希望しているとすると、潜在的な需要(2,000人)に対して、物件が108件しかない状況にあるということになります。これから戸建賃貸の需要の高さが窺い知れるのではないでしょうか。

2. 賃貸住宅としての京町家の良さ

こちらの記事でもお伝えしているように、八清が主に取り扱っている京町家は、年間に1.7%ずつその数を減らしています。

もちろん八清は京町家を保全していきたい立場なのですが、この減少により京町家の母数が少なくなるため、希少性が高くなっているとも言えます。そんなどんどん少なくなっている京町家には賃貸住宅としてどのような良さがあるのでしょうか。

A. 関西圏以外からの需要

賃貸住宅としての京町家に住んでみたいと考えている人はどこの地域の方が多いか調べてみました。

2018年から今まで八清がリノベーションした京町家に賃貸で住んでいる方は延べ80組。その内、従前の住所が京都市内の方は30組、京都市以外の関西圏の方は20組、関東圏の方は23組、その他が7組と従前の住所が関東圏の方が約30%という結果でした。

B. 賃貸相場にとらわれない価値

では、京町家の賃料はどんなものなのかが、気になってくるころかと思います。もちろん京町家は戦前の建物なので、昭和の中期から後期ごろに一旦リフォームがなされた程度…のような物件もあり、これらは京町家としての良さを活かせていないため賃料は、相場通り、ともすれば相場以下ということもままあります。

しかし、京町家としての良さ、例えば京町家らしい外観や意匠、空間の見せ方、一方で新しいコンセプトや機能性などに工夫をした物件の場合は相場感に左右されない賃料を設定できることもあります。

そこで弊社がリノベーションした物件と、その近隣の戸建賃貸等との成約坪単価を比べてみました。

1.左京区田中関田町「陰影の京町家」

町家の価値や特性を活かし住空間としてリノベーション。建築家のセンスと町家に携わってきた職人の手により、素材の性質を引き出した洗練された空間に仕上げています。

本物件の床面積は約20.25坪、成約賃料は170,000円/月、成約坪単価は約8,400円/坪です。

一方で近隣の同規模でリフォームされているマンションは、床面積は約20.35坪、成約賃料は110,000円/坪、成約坪単価は約5,400円/坪です。

2.東山区今熊野日吉南町「歩いて楽しい今熊野の家」

本物件は最寄りが京阪東福寺駅ですが、徒歩で約18分を要し、坂道を登る必要があります。周辺に古い寺院や神社が点在するエリアで、路地の中に位置する京町家です。

本物件の床面積は約20.93坪、成約賃料は100,000円/月、成約坪単価は約4,800円/坪です。

近隣の1996年築の戸建賃貸は、床面積は約21.17坪、成約賃料は80,000円/坪、成約坪単価は約3,800円/坪です。

3.左京区吉田橘町「吉田橘研究所」

京都大学のある学問の町「吉田」にある「研究所」がコンセプト。町家らしい外観、吹き抜けの壁面を覆う本棚。アカデミックな雰囲気の町家です。

本物件の床面積は約24.68坪、成約賃料は248,000円/月、成約坪単価は約10,000円/坪です。

近隣の1997年築の戸建賃貸は、床面積は約22.10坪、成約賃料は150,000円/坪、成約坪単価は約6,800円/坪です。

4.北区小山上板倉町「賀茂川近く ギャラリーのような京町家」

閑静な住宅街、北区小山にある、1軒の町家。玄関を入り、真っ白な壁に絵のかかる階段を上がった先は、出窓の付いたワークルームと天井が高いLDKがあります。

本物件の床面積は約19.21坪、成約賃料は138,000円/月、成約坪単価は約7,200円/坪です。

近隣の令和2年(2020年)にリフォーム済みの京町家賃貸は、床面積は約21.19坪、成約賃料は110,000円/坪、成約坪単価は約5,200円/坪です。

上記はほんの一例であり、リノベーションの時期や築年数によって左右されることはありますが、リノベ済み京町家賃貸が近隣の成約事例と比べて成約坪単価が高いことがわかります。

C. 募集期間の短さ

市場が広いこと、高い賃料で貸せる可能性があることはわかったけども、入居までの期間がどれくらいかも気になることかと思います。

そこで募集開始から成約日までの募集期間を調査しました。

株式会社タスが公開している賃貸住宅レポート(2025年5月期)によると京都府では平均募集期間が4.73ヶ月ということがわかっています。

一方、弊社が取り扱ってきたリノベーション済み京町家(※集計元はA.と同様)の募集期間を調べてみたところ、平均で49日、中央値で29日という結果でした。

このことから、上記の平均募集期間と比べて、リノベ済み京町家の募集期間は短いことがわかります。

戸建賃貸の市場での少なさ、京町家の希少性、京町家の市場の規模がこの募集期間の短さに寄与しているとも考えられます。

3. いいことばかりではない?京町家の賃貸

これまで戸建賃貸、京町家の需要の高さをお伝えしてきたのですが、もちろん良い話ばかりではなく、京町家ならではの手間のかかることや、理解をしなければならない特徴があります。

A.建物がつながっている

京町家は壁や柱等の構造を共有する連棟であることが多いため、隣家とたった一枚の壁で隔たれていることがあります。ということは同じ家に住んでいるのとほとんど変わらないような環境といえます。

その壁に対してもう一枚壁を追加したり遮音シートを使用することも可能なのですが、やはり構造を共有しているため新築同等の防音はなかなか難しい建物です。

B.小動物や虫の侵入

京町家は本来の構造上、建物の隙間が多いものです。またリノベーションを施したとしても経年劣化による木材の痩せ等でどうしても外部との間にすきまが生じます。

すると、京都は自然が豊かであるがゆえに、そのすきまからネズミやイタチ、ゴキブリが侵入することもめずらしくありません。また連棟の場合、どうしても隣家の床下や天井裏から動物等が入ってくることもあります。これも生活音と同様に建物の特徴としてご理解をいただく必要があります。

C.自然素材のあつかい

京町家らしさを表現する仕上げとして、左官仕上げの壁・天井や畳、真壁、庭等があげられます。その中でも左官仕上げの壁は壁紙にはない質感や光に照らされたときの陰影によって、数値ではあらわすことのできない魅力があります。

ただ、壁紙と違ってものをぶつけたりすると、当然削れたり汚れたりすることもあり、修繕もできるのですが、自然素材であるがゆえに多少の色の違いがでてきてしまいます。自然素材である以上、多少の傷や汚れというものはついてしまうもので、それさえ経年美として捉える気概が必要なのかもしれません。

4. 投資が文化の保全に

京町家は賃貸投資商品として上記の特徴があり、また別のコラムで記載しているのですが、再販価値や減価償却のメリットがあります。この特徴はやはり京都の文化の一つである京町家が存在するからこそであり、はじめの所有の目的が投資であったとしても、京町家への投資は副次的に京都の文化の保全の一端を担っているといえます。

投資をするうえで数字は非常に重要なことであり無視はできないものですが、情緒的な目的として文化の保全への貢献という視点ももつと、投資する意義に深みが増すのではないでしょうか。

二級建築士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士を保持村田 優

賃貸から売買まで幅広く現場を経験。京都の不動産市場を日々見つめながら、投資物件の管理面も含めて、実務に根ざしたアドバイスを届ける不動産の専門スタッフ。

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