09.jpg

京都の風情あるまち並みをつくるうえで欠かせない京町家。

八清ではそんな京町家と京都が誇る美しい景観をこの先も残していくべく、日々あの手この手で策を講じています。

そこで私が出張研修のテーマに選んだのは、アートの力で空家や廃校の活用を行い、まちおこしをしている「越後妻有 大地の芸術祭」。

今回は建築ディレクション部の村元とともに、芸術祭の舞台である新潟を訪問しました。

村元の記事はこちら

新潟で見た、自然と共生するくらし【八清の自由研究 その4】

記事はこちら

「越後妻有 大地の芸術祭」とは

logo2022.jpg

新潟県の「越後妻有(えちごつまり)」地域を舞台に3年に1度開催されている国際芸術祭です。

大地の芸術祭が開催される越後妻有地域とは、新潟県の南の端にある十日町市と津南町からなる地域を指し、約760k㎡もの広い地域に多くの作品が点在しています。

芸術祭の始まりは2000年で、8回目となる今回は新型コロナウィルスの影響により1年延期され、待ちに待った開催となりました。

4月から11月という今までにないロングラン開催で越後妻有地域の四季とともに芸術との出会いを楽しめるものとなっています。

前回(2018年)の開催では、約54万人の来場者数を記録し、経済効果や雇用・交流人口の拡大を地域にもたらしているそうです。

今回私たちが見学しているときにも修学旅行生らしき団体に遭遇するなど、多くの方が関心を持ちこの地に訪れているということがわかりました。

02-2.jpg
マ・ヤンソン/MADアーキテクツ「Tunnel of Light」(Photo Nakamura Osamu)

とにかく作品数が膨大なので、今回の研修中にすべてを見に行くことは難しかったのですが、見ることができた作品の中でも特に心に残ったものをいくつかご紹介したいと思います。

廃校を舞台にした二つの作品

03.jpg
田島征三「鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館」

04.jpg
クリスチャン・ボルタンスキー+ジャン・カルマン「最後の教室」

まずご紹介するのは、「絵本と木の実の美術館」(写真上)と、「最後の教室」(写真下)。

どちらも廃校を活用した展示です。

「絵本と木の実の美術館」は廃校になる前の最後の生徒3人を主人公に校舎全体に物語が展開される、体験型の空間絵本のような構成です。

かつての教室内には、学校に通う最後の日に生徒が黒板に残した落書きがそのままになっており、当時の情景が色褪せず残されていました。

05.jpg
田島征三「鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館」

他にも室内の展示だけでなく、外部にあるビオトープ(生きものが生息できるように人工的に作られた池)も含め里山で暮らす、すべての生きものたちのエネルギーを感じられる展示でした。

06.jpg
クリスチャン・ボルタンスキー+ジャン・カルマン「最後の教室」

対して「最後の教室」は深い雪に閉ざされた冬の記憶を閉じ込めた、重厚な空気の漂う作品です。

体育館に敷き詰められた藁のにおいや学校全体に響き渡る心臓音などにより、人の気配を感じさせるものの、実際にその姿はなく人間の不在が際立っています。

どちらもその場に人がいた時の記憶を建物に閉じ込めた作品なのですが、全く印象が違うものになっていることが強く心に残りました。

前者は里山で大地の恵みを享受しながら生きものがいきいきと生きる季節、後者は深い雪に包まれ春の雪解けを静かに待つ冬の姿と、作品からも越後妻有の四季を感じられることができました。

この二つの作品以外にも廃校を活用している施設がいくつかあり、それぞれ地域の個性を反映した展示となっています。

築150年の古民家「脱皮する家」

07.jpg
鞍掛純一+日本大藝術学部彫刻コース有志「脱皮する家」

「脱皮する家」は築150年の空家となった古民家の壁や柱、梁など家全体を内側から彫刻刀で彫り、アートとして脱皮・再生させたという作品。

家の片づけから作品作りは始まり、述べ3000人工、期間は2年半もの歳月をかけ完成させたそうです。

08.jpg
鞍掛純一+日本大学藝術学部彫刻コース有志「脱皮する家」

途方もない作業の痕跡に圧倒されつつ2階へ上がると、ある部分が八清ではあまり見られない仕様になっていることに気がつきました。

09.jpg
鞍掛純一+日本大学藝術学部彫刻コース有志「脱皮する家」

それは2階の窓が見晴らしのよい掃き出し窓(窓の底辺部分が床まである、引き戸式の大きな窓)になっているということです。

落下事故の危険性があるため、通常このような窓の場合手すりや柵を取り付けるのですが、スタッフの方曰く、冬に雪が深く積もると1階の玄関から出入りができなくなるため、2階の窓から出入りできるようにこのような仕様になっているのではないかということでした。

かつてこの家で暮らしていた人は、こちらの想像をはるかに超える豪雪と共生していたということがわかり、当時の生活風景に思いを馳せながら窓の景色をゆっくり眺めました。

また驚くことに、この作品は宿泊することができます!

私たちが見学した週末にも宿泊の予定が埋まっていたそうです。

さらに「脱皮する家」のある集落は多くの観光客が訪れる「星峠の棚田」があることでも有名です。

「脱皮する家」からは徒歩約15分(車で約5分)ほどの距離にあるということで、せっかくなので見に行きました。

10.jpg

「脱皮する家」に宿泊したら、早起きしてお散歩がてらこの素晴らしい景色を眺めにきて、すがすがしい空気の中用意してきた温かいお茶を飲んだりして...と想像がふくらみます。

次回訪れることがあれば、ぜひ農家の集落への宿泊体験をしてみたいと思います。

文化の継承と芸術のかかわりついて

アートや芸術祭と聞くと、少し敷居が高く感じてしまうかもしれませんが、根底にあるのは「土地の文化や歴史を継承し残していきたい」という私たちと同じ気持ちだということがわかりました。

また、各地に散らばった作品を見学しに行くと、その土地の方やスタッフの方に「どこから来たの?」「あの作品見た?」と話しかけられ、作品ができるまでのストーリーや地域のお話を聞かせていただく場面がいくつもありました。

私たちのように県外から来た人間にその土地のお話をして広めることも、文化や歴史の継承の一端を担っているのかもしれないという気づきを得ることができました。

今回の研修を通して、作品とアーティストから、越後妻有の歴史とそこで暮らす人々の暮らしへの尊敬の念と深い理解、さらにひとりひとりが、文化や感じたことを発信していく重要性を感じました。

私自身も八清で京町家について発信していくものとして、京都という土地の文化と歴史をより多くの方にお伝えするためにさらに尽力していかねばならないと気が引き締まった2日間となりました。

「越後妻有 大地の芸術祭」は次回2024年に開催予定です。

次回はまた別の季節に、今回見ることができなかった他の作品も見に行きたいと思います!

参考

大地の芸術祭HP

Webサイト

ほかの記事を見る

jiyukenkyu.jpg

八清社員が日本各地へ興味が赴くままでかけ、見て、聞いて、普段の業務では得られない知見を広めてきましたのでレポートします。

ページはこちら