浪漫別邸の建物が建つのは青々とした木立のなか。
敷地の半分以上を占める広い庭は、大きなガラス窓が連なる縁側を
L字型に囲むように作られており、
客室から最も美しい角度で景色を眺めることができるようになっています。
暑い季節が終わり、風が涼やかになった9月下旬の庭。
青く深い森のなかに足を踏み入れてしまったような景色の縁側は、
数日前から降ったりやんだりを繰り返す小雨で、
さらに神秘的な空気を纏っていました。
いつも雨の気配がする浪漫別邸の打ち合わせ。
この家の魅力を引き立てる雨が打ち合わせの度に降るのは、
今回のリノベーションを、この建物が喜んでくれているようにも感じます。
少しのあいだ人手が入ることのなかった庭は
まるで森のように自然の一部と化しており、
生命力を宿した木々たちが勢いよく建物に迫ります。
ありのままの自然の景色はとても美しいものですが、
足の踏み場もない現在はその機能を果たしていません。
まずはこの庭に再び命を吹き込むべく、
造園屋さんによる剪定作業を行いました。
枯葉が積もり、苔が表面を覆い尽くしていた足元には土が顔を出し、
伸びすぎた葉に覆われて見えることのなかったサルスベリの肌が
光を浴びてなめらかな輝きを放ちます。
剪定を終えた冬の庭は、殺風景のようにも見えながらも、
それぞれの枝の先には、次の季節の到来を感じさせる
小さな蕾を見ることができます。
ちらつく小雪で湿り気を帯びた土の下では
風に乗ってやってきた小さな植物たちの種が、
春の訪れを静かに待っています。
縁側の前に配された敷石には、1つだけ飛びぬけて大きな
丸い石が使われています。
これは「礎盤(そばん)」と呼ばれるもので、
実はお寺の基礎部分に使われる石です。
何十年かに一度行われる大改修で取り換えられるものを
予めお願いしておくなどして、寺院からわけていただくもので、
「伽藍石(がらんいし)」とも呼ばれます。
礎盤が庭の踏分石(ふみわけいし:飛び石の分かれ道に使う)として使う
慣習が広まったのは古く江戸時代の頃だそうで、
固い石が年月を経て庭になじんでいく様子味わい深く、
今日でも寺院や邸宅の庭園などに見ることができます。
礎盤とともに庭の景色の一部を担ってきた洋館の扉は
長い間風雨に晒され、腐食が進んでいました。
球状の小さな細工が施されたガラスが埋め込まれたデザインで、
洋館内部を見ると、おそろいのデザインの扉が部屋の中に
もう1か所設けられています。
腐食が激しいため、当初は扉ごと取り換えられる
予定でしたが、 おそろいのデザインは2度と手に
入らないこと、また長い間この家の景色を担ってきた
大切な存在であることから、メンバーで話し合い、
建具の専門店に無理をお願いして
面材を貼り換えていただくことになりました。
新緑のまぶしいころには、補修された扉が
この家の新しい一部となり、
美しい景色を作り出していることと思います。
予定より少し遅れて、これから改修工事に入る浪漫別邸プロジェクト。
春に向けて次第に色づく庭とともに輝きを取り戻していく家の様子を、
少しずつお伝えして参ります。