歴史刻む
大塀造の京町家
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一条通に寄り添う、
平安京の歴史を今に伝える地上京区一松町は、平安京造営当時に北限の道として通された一条大路、つまり現在の一条通のすぐ北側に位置します。
1245年に一条殿邸が建てられたその跡地である一条殿辻子と、琵琶法師松並検校の家があった松並辻子があったことに由来します。町の南東側に位置する一条室町は、お触れの張り紙や看板等が上げられる札ノ辻とされ、店が並び複数で構成する町組の自治連合も構成され賑わう場所でありました。また里程標があることから一条室町が道路の起点であったことがわかります。また周辺には、茶道家元武者小路家の「官休庵」や、千家十職の塗師である中村宗哲の邸宅があり茶道にもゆかりの深いエリアです。
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大切に住み継がれた、
明治期の京町家に宿る想い明治時代に建てられたこの町家は、昭和後期に画家として活動していた中井汲泉氏(前所有者の祖父)の一族によって購入され、その後は前所有者とご両親が共に暮らしていました。
前所有者によると、お父様は骨董や建築物に興味があり、町中を巡って素敵な建物の写真を撮ることが趣味でした。一方、お母様は家や庭の手入れに熱心で、特に庭木に関して豊富な知識を持っていました。地元ではボタンの栽培経験もあり、この家に暮らし始めた当初は、庭の過密な植栽を少しずつ間引いて整えていったそうです。庭の手入れだけでなく、家全体の片付けやメンテナンスにも力を注ぎ、家を美しく保つ努力をされてきました。そのようなご両親の影響もあり、前所有者は建物をできる限り元の状態で保ちたいという強い想いを抱くようになったのです。
この家に込められた中井氏の深い愛情と想いが、今後も大切に引き継がれていくことを心より願っております。
大塀造の風格漂う、
奥深い京町家の佇まい
通りに面して背の高い塀が建ち、前庭を介して建物が建つ「大塀造」。職住一体のものとして建てられることが多い京町家のなかでも、住居専用として建てられる形式。
門扉を開けると植栽が植わる露地が奥へ伸び、客人を迎え入れるための玄関と、御勝手(台所)へ通じる通り庭への玄関、そして、前庭から客間となる座敷に出入りできる小さな扉があります。客人をもてなすことを意識した造りであることが伺えます。また、母屋の奥には離れが設けられ、「昭和四年六月廿七日」と記載のある御幣が残されています。
母屋は平家ではありますが、前庭からはじまり、座敷、中庭・玄関、洋室、座敷と奥に深い形状です。通り庭は一部床上げされていますが、おくどさん(竈)、人研ぎの流し台、井戸が残り、かつての暮らしを想像させます。昭和4年に建てられた離れは、縁側を介して二方向に庭に面し、とても開放的で明るい座敷であります。
奥庭前庭と露地庭には、多種多様な植物が植わっています。前庭の大きなアカマツ、奥庭の大きなツゲ、キンモクセイにツバキやナンテン、露地庭はギンモクセイやサザンカ、シャクナゲなどが四季折々に彩ります。
京町家で学ぶ!昔ながらの暮らし
夏座敷
暑い夏を乗り切るための
昔からの知恵
▲スライダーを左右に動かすと、夏座敷仕様にする前後の写真を比べることができます
かつての所有者中井家により大切に住み継がれてきた町家。
昔ながらの住まい方のひとつに「建具替え」という知恵があります。
暑い夏の時季を迎えると、襖や障子などの建具から、風を通す簾や簀戸などに取り替え、涼を得るという工夫です。簾などに取り替えた涼し気な様子を「夏座敷」と呼びます。
夏座敷になるのは、6月中旬~9月下旬ごろまでの期間で、季節の変わり目に建具替えを行い、特に夏の建具は冬の間に修理に出し、また次の夏の前に戻ってくるようなサイクルになるのだそうです。
ここでは建物とともに、この建物専用につくられた「簾」も受け継がれていました。
専用の金具もあり取り付け方の知識もなかったため、今回は八清本社事務所の向いにある久保田美簾堂様で、簾の取り付け方を教わることにしました。
▲受け継がれている本物件専用の簾
▲簾の取り付け方は久保田美簾堂様から教えてくださった
京町家の建具は五尺七寸のモジュールで造られているので、おおむね寸法に合わせて簾も造られるが、建築時期や家々により少しずつ寸法が異なることがあるため、簾等はほぼオーダーで作成されるものだそうです。戦前までの場合、部屋の外側に向けて表面が向けられていたようです。しかし戦後、部屋側から表の綺麗な面を見るという目的で部屋の内側に向けて表面が向けられるようになったのだそうで、吊り方にも時代の流れがあることがわかります。
建具替えの建具等は、1つだけ用意するものではなく、「簾・葭障子・網代」がセットであることが多いそう。その家専用のものをオーダーで造り、専門の職人に修繕してもらいながら使い続けるそうです。
簾そのものは、削いだ細い竹を竹ヒゴにし編み上げていきます。節の位置で模様が描かれ、表面を揃えたり、表裏交互に編む場合もあるそうです。
組まれた簾は周囲に裂地を取り付けます。修繕の目安としては、裂地が傷み、編み糸が切れてしまったら直せないので、再び新調することになるそうです。
▲取材協力:久保田美簾堂 様(外部リンク)