六 ステンドグラス

 現場では木工事が進められているころ、メンバーはそろって 「ウェリントン」という伏見区の店に足を運んでいた。
八清では割と馴染みがあり、アンティークのステンドグラスやドア・家具を扱うお店で、実際にヨーロッパへ渡り古い教会や住宅で使用されていたものを買い付けている。イギリスの1930年代のものが多数を締め、日本国内でも有数の品ぞろえである。
大正ロマンプロジェクトではたびたび登場するステンドグラス。そこにあるだけで、西洋の華やかさをもたらし、時々の光の加減でさまざまな表情を見せてくれる、大正ロマンには欠かせないアイテムである。


「久しぶりに来たなぁ。相変わらずの量・・・すごいな。」と藤井。
倉庫を兼ねた店舗には、所せましとアンティークのドアやステンドグラスが並んでいる。 どれも塗装が剥げていたり、傷があったり、年代を感じさせるものばかりだ。
あちこちに目をやりながら安田が「今日決めるのってどこの部分だっけ?」
「まず、LDKの東側のハイサイド窓。それと、階段の踊り場です。」と落海が振り返りながら言った。
設計図をめくりながら江見が「LDKは幅600ぐらいのものが2枚、階段の踊り場は幅1800までで探してください。」

 4人はさっそく散らばり、手分けして目当てのものを探しはじめた。
奥の壁に本のように立てかけられている小さなサイズのステンドグラスを一枚一枚傾けて見ていた落海が、「LDKは対になっているものがいいかな。」「いろいろありますよ。色なしや色あり、モチーフものとか。」

 しばらくして2階から店舗のスタッフが降りてきた。
すると、安田の顔を見つけて「あぁ、お久しぶりですね!」
「小池さん!ご無沙汰してます!」と安田が返した。 他の現場でも付き合いのある安田が一番顔なじみであった。「また大正ロマンシリーズの物件、やってるんですよ。」と懐かしそうに話しはじめた。

 そうしているうちに、向こうの角から「これなんかどうですかね。幾何学模様とかいいなぁ。」と藤井が2枚を手にしてやってきた。
「あぁ、シンプルでいいですね!」と落海。
「う~ん、私はもうちょっと色味が欲しいと思うのですが、これなんかどうですかね?」と江見は花モチーフのものを手にしていた。
それぞれを蛍光台に乗せ、メジャーを当ててサイズを見ながらとっかえひっかえ見比べてみる。

「何度も取り入れておいて今さらなんですが・・・、ステンドグラスってどうやって作られてるんですか?」と顔を上げて落海が尋ねた。
「鉛のフレームに合わせて端からパズルのように埋め込むんですよ。少しでもサイズが違ったりすると最後まで入らなくなって。」と小池氏が説明した。
「すごく精密な作業なんですね~。」と皆感心しながらまじまじと眺めている。
「ピースが多い、色数が多い、曲線を描いているようなものは高価ですね。」と、背後に吊り下げられていた畳1.5枚分ぐらいある大きなステンドグラスを指しながら小池氏が言うと、
「あれすごいやろな~!あっ!確かに桁が違うわ。」という安田の声に、皆が笑った。

しばらくあれこれ見比べてから、「階段の踊り場には・・・これなんかどうですか?」と小池氏が引っ張り出してきた。「お~色数が多い!このモチーフはなんやろ?」と藤井。すると小池氏が「これ、おそらくフルーツバスケットですよ。」
「なるほど~確かに!フルーツの形している!」
「階段の踊り場はかなり目につくところですし、これぐらいの華やかさは欲しいですよ。サイズもちょうどいいし、これにしましょうよ!」と、満場一致であっさり決まった。

 実際に現場にはめ込まれた様子をおのおのが想像しながら、一同は晴れやかな気持ちで店を後にした。

※スクロールまたはフリックしてお読みください。