<ruby><rb>天</rb><rp>(</rp><rt>そら</rt><rp>)</rp></ruby>と ⌂ for S

  • コンセプト
  • 物語

なぜ露天風呂?

2つのお風呂があります。

1つはふつうの内風呂。
もう1つは「そら の見えるお風呂」、つまり露天風呂です。
なぜ露天風呂が戸建ての住まいに?
きっかけは、担当・藤井の実家でのできごとでした。

「朝日を浴びながら入るお風呂って、
普段とぜんぜん違う……」

現代の、ほとんどのお風呂場には窓がない。
もしそこで光や風を感じられたら、
お風呂で過ごす30分が、がらっと変わるはず。

かくして「そら の見えるお風呂」のある家
そらと  for S」の計画は、はじまりました。

設計士は「行き交う町家」を手がけた北野さん。
この露天風呂を、家に“余裕”を生み出す存在と考えているそうです。

「いつでも2つのお風呂を選べる。非日常的なものに手が届く。
こういうことは気持ちにも、空間にも、余裕をもたらすはずです」

そら の見えるお風呂」という非日常が庭先に。
まちなかの住まいとは思えない
余裕のある暮らしが味わえそうです。

内と外、どうつなぐ?

歩ける距離に、STUDIO NORDの北野さんが
以前設計を手がけた家「行き交う町家」があります。

夏のある日、今回のプロジェクトに関わる者を集めて立ち寄ってみました。

場所と場所を行き交うことで、多彩な魅力を発見できる、
隣り合う2つの町家を1つにつなげた贅沢な家。

でも変化があるのにどの場所も、
不思議と落ち着けるんです。

なぜ落ち着けるのか……しばらくしてポイントは、
“つなぎ方”にあると気づきました。

開閉可能な扉やわずかな段差でうまく区切りをつけながら、
完全には視線を切らさないよう、設計を工夫されているのです。

そんな“つなぎ上手”な北野さんが「そらと  for S」で
取り組んでいるのは、やわらかく内と外をつなげること。

庭と室内の間には、ひと呼吸おける中間領域をと、
窓のすぐ外に半外部空間「open air living」を設計。
さらに「内と外をあいまいに区切りたい」という意図で、
軒先にはパーゴラやルーバーをかけるそう。

背景にあるのは「京町家本来の魅力を取り戻したい」という考え方。
むかしの京町家は、内と外のつなげ方が繊細でした。
縁側や土間のような、あいまいな中間領域が大切にされ、
さらに簾で、丁寧に視線や日差しが調整されていたのです。

京町家を現代的に翻訳した“つなぎ”の技が
この家でどう展開されるのか。完成が楽しみです。

シンボルツリーを考える

すっかり肌寒くなった12月、現場では木工事が進んでいます。
そんなある日、造園についての打ち合わせがありました。

やってきたのは、今回の造園をお願いしている花屋「みたて」さん。
北山でお店をしており、八清では「Junk Style TsuTaKi 土蔵じたて」で植栽を入れてもらったり、「光射す町家」のお庭をつくっていただいたこともあります。

花屋「みたて」HP http://www.hanaya-mitate.com

本日のテーマは、シンボルツリーの検討。
6×10mの広い庭の中ではいわば大黒柱のような、
中心的な存在です。

さっそく設計士の北野先生と八清の担当・藤井と3人で、検討を開始。 大事なのは、季節感を感じられること。そこにメンテナンスのしやすさ、 工事が進んでいても搬入がしやすいかどうか、といった現実的な条件が加わります。

北野先生が設計でイメージしていたのはしだれ桜。
春の一瞬を楽しむためにある、究極の季節感がよいとのこと。
しかし桜のような落葉樹の場合、冬に葉が落ちてしまう寂しさをどうするか、という課題も……。

ここで、みたてさんから出てきたアイデアは
「洋風の常緑樹を桜のそばに植えるのはどうか」というもの。

これには北野先生も、外観が和で中は洋の空間なので、 和の桜と、洋の素材の合わせ技は相性もよさそうだと共感を寄せます。

さらに玄関と水まわりの延長上に、
アイストップになる鉢植えの植栽もお願いしたいと北野先生はイメージスケッチを見せながら説明します。

樹木がポイントになるこの家では、庭のデザインも設計の一部。
みたてさんの目利きでシンボルツリーやアイストップに
どんな樹木が選ばれるのか、楽しみです。

リゾート感のあるシャワーとは?

木工事がつづく昨年暮れ。
本日のテーマは、水まわりの設備機器の検討です。

2つのお風呂を持つこの家では、
バスルームや洗面所などの水まわりの空間には、
普通の家よりちょっと大事な役回りをしてもらいます。
シャワーユニット、水栓といった1つひとつのパーツに、意味のあるものを選びたいと設計士の北野先生は考えているようです。

「非日常性を表現したいので、住宅ではなくホテルに置かれているような器具、そして懐かしさを感じさせる器具を選びたいと思っています」

たとえば外部のお風呂場のシャワーは、天井から降り注ぐタイプのもの。
リゾート風で素敵です。

しかし問題はその配管。お風呂場の上部には、パーゴラを組む予定です。細い材に配管はできるのか? 防水は? 家の耐久性につながる水まわりの工事、しっかりと検討します。

北野先生と八清の担当・藤井、大工の山田さんで
図面とカタログを見ながら1つひとつ、1、2階の洗面台と水栓、トイレ、
お風呂の水栓、シャワー……と順に器具やその取り付け方の検討を進めていたところ、大工さんがコーヒーを入れてくれました。

底冷えする現場、ありがたい気遣いでした。

造園屋さんで
シンボルツリーを選ぶ

年明け間もないある日、設計士の北野新吾先生、幸子先生ご夫妻と、花屋「みたて」さん、大工の山田さん、八清の担当・藤井は、
嵯峨の造園屋「池内善兵衛園」に来ていました。

本日のテーマはシンボルツリーの選定です。

昭和のはじめから続く池内善兵衛園。
なんと3,000坪もあるという敷地は、まるで植物園。
池内善一さんに「庭のシンボルになる、枝ぶりのよさ」
「道路から手で搬入できる直径で、高さは3mまで」などと条件を伝えると、池内さんは無数の樹木の中から迷いなく、候補の樹木へと案内してくれます。

八重咲のしだれ桜、紅枝垂のもみじ、青枝垂のもみじ、ノムラモミジ、源平桃など、合計10本ほど、候補になりそうな木を見せていただきました。

そしてシンボルツリーに選ばれたのは「八重咲のしだれ桜」。

決め手となったのは「ある季節にパッと花が咲いて、しばらくしたら跡形もなく消えている。そんな儚さが庭に欲しい」と語る北野新吾先生の、庭に非日常の風景をつくりたいというこだわりです。

つづけてお風呂の近くや視線の先に置き、冬枯れの寂しい風景を補う樹木の選定に入ります。「常緑で背の低い鉢植え」「洋風の芝生と和風の桜のどちらにも合う」といった条件を伝えると、再び池内さんは次々と、候補の樹木のある場所へと一行を導きます。

その中で北野新吾先生は、レモンの木を発見。
「京都の寒さでも大丈夫なら、こういうのもいいなあ」。

レモンの他にも清見オレンジ、スダチなど、柑橘系の樹木が集まるエリアで一行は、しばし探索。 北野幸子先生は「ユズを育てるのは難しんでしょうか?」と池内さんに相談も。
ちなみにトゲが多く、大きく育ちやすいため、難しいそうです……。

滞在すること計2時間。サブツリーも決まりました。
お風呂の横にはオカダマの木。5月にバナナのような薫りのする花をつけるので、その薫りを楽しみながらの入浴は贅沢そうですね。
デッキの奥はみたてさんの選定で、トネリコなどの高木と、柑橘系の低めの木をまぜあわせて並べるということになりました。

建具を探して

工事もいよいよ大詰めとなる1月下旬のある日、前回更新で紹介したシンボルツリーを現地で確認した後、設計士の北野先生、大工の山田さん、八清の担当・藤井の3人は御所の南の家具の街、夷川通にある井川建具店に向かいました。

八清ではおなじみの古建具店で、「Junk Style TsuTaKi 土蔵じたて」「cafeと⌂ for S」などでも建具の手配でお世話になりました。

通り沿いの店舗にも所狭しと建具が並んでいますが、路地奥にある倉庫にはさらなる建具がぎっしりと詰まっています。

倉庫は建具の迷路のような空間で、大人1人がやっと通れるくらいの通路が確保されています。井川建具店の井川さんは、その膨大な建具の位置を記憶されており、寸法などをメモしたテープを確認しながら、合いそうなものをピックアップしてくれます。

邪魔にならないように階段の上から見守っていると、建具の間の通路に井川さんの頭が見え隠れし、建具をパタンパタンと倒す音。お目当ての建具が見つかると、担当の藤井と北野先生を呼び、「これなら寸法に合いますよ。」と建具を見せます。確認し、使うことに決まった建具には印をつけていきます。このやりとりを繰り返し、建具がだんだんと決まっていきます。

すべて異なる表情を持つ古建具。光を通したいけど視線を遮りたい場所に適した格子状の建具、向こう側がまったく見えないのっぺりした板張りの建具、すりガラスの嵌まる建具、大きな透明ガラスの嵌まる建具など、さまざまな意匠のものがあります。

4枚一揃えのものもあれば、1枚のみのものもあります。意匠がぴったりでも、寸法や数が合わなければ使えません。

この住まいではおよそ14〜16カ所、たくさんの古建具を使います。北野先生は古建具について「どれも強い個性があるので、その存在感をバランスよく取り入れたい」と話していました。

和の空間のみならず、フローリング敷きの居間などにも使うとのことで、個性豊かな建具がどんな場所にどう使われるか、完成がますます楽しみになります。

桜の開花

この家のシンボルツリー、しだれ桜の開花の様子。
暖かくなった3月の終わりに開花を迎えました。

現場はもうすぐ完成予定です。