四 大正ロマンとは?

まだまだ残暑が残る頃、とあるレトロなビルの地下にあるカフェ「アンデパンダン」にメンバーが顔をそろえた。明治以降にモダンな商業用の建築物が次々と造られ、当時最先端の建築技術が集結した三条通沿いにそのビルはある。新しいロマンを生み出すためには、想像力をかきたてる場の演出も欲しいという落海は、打ち合わせする場所にもこだわりを持っていた。

 全員がイスに腰掛け一息ついた頃合いを見計らい、落海が口を開いた。
「久しぶりなんで少しロマンの要素を洗い出しましょう。これまでに4軒手がけてきて、いろいろ試みましたよね。」
「格天井の応接室、ドイツ壁、白い壁に腰板、紅い階段も…」と言う安田に合いの手を入れるように、
「2番目にやった紅い階段。懐かしいなぁ。」と藤井。
「ステンドグラスに…モザイクタイルも定番ですね。」という江見の言葉に、全員が同時に足元へ目を落とした。店のフロア全体に小さなタイルが広がっている。
「ここもいい感じですよね。」

ふっと顔をあげてアイスコーヒーをひとくち流し込んだ安田が、
「大正ロマンの要素はどれもパンチ(特徴)があるし、あれもこれもやってみたくなるけど、盛り込みすぎると重たくなる…」ボソッとつぶやいた。
「ひとつひとつに華やかさや重厚感があるし、ロマンはやり過ぎ注意だよね(笑)」と藤井の言葉に一同は苦笑いした。

「大正ロマンっていっても、実際にこういうもの、と形が決まっているものでもないですしねぇ。」そう言った江見に顔を向けながら、
「そう。西洋文化に憧れた当時の日本人が、ちょっと背伸びをして"和"の住宅に、憧れの"洋"の要素を取り入れた感じ。そこには、それぞれの熱い想いが込められているわけで、それこそが大正ロマンなんじゃないですかねぇ。」と落海が子どものように目を輝かせながら言った。

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