こんにちは。メディアデザイン部の広瀬です。

この春満を持してオープンする八清プロデュースの高級宿『凛葩』。

今回のスエヒロガリでは、発案者である西村直己(八清専務取締役)と、設計・デザインを担った木村隆一(暮らし企画部)に、「凛葩」にかける想いを語ってもらいました。

 

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アートの魅力で"非日常"という付加価値を

この宿を作ろうと思ったきっかけを教えてください。

西村:京都の寺町丸太町にTHE SCREENというデザイナーズホテルがあって、13部屋各部屋のデザインをクリエイターが1人ずつ担当しているんです。そこに日本画がテーマの部屋があるんですが、それにインスピレーションを受けて、町家でもっと面白いことできんかな、それを超えるようなものを作りたいなぁという欲求が僕の中にありました。

京都商工会議所の展示会に京宿家を出展したときに、デジタルアーカイブ 事業を 手掛けているアーテファクトリーさんの専務さんとお会いして共鳴したんです。アーテファクトリーさんがいろんな絵画のリソース をお持ちなので、それを使って京町家と融合させたら、価値のある町家宿ができるんじゃないかなと。うちだけではなかなかできないことがあるけども、アーテファクトリーさんが絡むことでできるなと決定的に思ったので、そこから1年、2年越しで考えていきました。そんなきっかけです。

 

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「日本画を使って何かできないか?」というのが最初にあったんですね。

西村:そうですね。日本画と町家っていうのは、おそらくすごく親和性が高いものであろうと。日本画って、もともと暗がりの中で見る絵。明るいところで見る洋画とは正反対なんです。くすんだ色ではあるんですけど、美しいと思います。その美しいものを体験いただくことで、ただ単に泊まるとか滞在するという以外の付加価値が出せるんじゃないかな、それをちょっと宿泊料の高いもので展開していけないかなという思いがありました。

先ほどのお話に出ていた「デジタルアーカイブ」について教えてください。

西村:デジタルアーカイブは、著作権の切れた古い絵師の作品などの美術コンテンツを、高精細デジタルデータにして保存しているもので、権利的にもきっちり保全した上で、二次利用できるようにされています。当社はちゃんとお金を払って、合法的に使わせていただいています。

アーテファクトリーさんはデジタルアーカイブのデータとして使えるように加工してくれる会社さん。この宿で使わせていただいたデータ元の作品の版権を持っているのは、実は細見美術館さんなんです。
アーテファクトリーさんとタイアップすることで、不正コピーではなく、かつ、目で見て分からないぐらい再現度の高いものをいろいろなかたちで取り入れることができました。ただ単に襖っていうだけではちょっと面白くないし。2階のガラス玉とか、映像にもしています。

株式会社アーテファクトリー(外部サイト)

京都にゆかりが深い"琳派"をテーマとしたアートを取り入れて

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凛葩は琳派とかけているのでしょうか? そもそも琳派ってなんですか?

西村:そうですね。琳派というのは尾形光琳の琳から来ているのですが本阿弥光悦や俵屋宗達、尾形光琳らを始祖として、「私淑」という直接の子弟関係はない憧れや思慕という形で、継承・発展していった画風、画派のことです。そのルーツは大和絵にあって、源氏物語のような雅の世界観で主に花や自然をモチーフとした絵で表現しています。デザイン性や装飾性が豊かで、大胆なデフォルメや、くっきりした輪郭がとても個性的で美しいんです。

琳派はアーテファクトリーさんがお持ちのリソースの中で、スタンダードにたくさんあるというのと、2015年が琳派400年で盛り上がっていたときなんです。本当はそこに合わせてリリースしたかったんですけど、大変時間がかかって、遅れてしまいました。でも、普遍的なかっこよさというか美しさがあるので、400年には間に合わなかったけども、いいかなって。京都とも関係性が深いしね、琳派って。

「凛葩」の「凛」は、りんとしまったというか、いぶし銀的な落ち着いたかっこよさを表しています。これは木村くんの発想が強いですね。

木村:字画とバランス(笑)

西村:あ、そこ!?(笑) でも、木村くんの価値観ともあってて、いいんじゃないかなって。ど派手すぎない、みたいな。

木村:最近は、それを心がけています。

西村:木村くんはデザインの引き算的な良さがわかる人だと思ってて。それを活かしてやってもらったらいいかな、と思ってましたね。

木村:「葩」は旧字体の「花」なんですよね。

西村:琳派自体のモチーフは、基本的に草花であることが多いので。それを組み合わせた名称です。どんなふうにこの宿を作っていったらいいかなっていうのを考えたときに、ただ単に、絵を、デジタルアーカイブを使って建築化していくというのは、面白いけれども、それだけじゃちょっと弱いなと思っていました。この宿自体が、あたかも自然の中にいるような立体感を出せたらおもしろいなあって思っていて。

木村くんの発想の中で、竹の階段であるとか、元々はない中庭を作っていくっていうのがあったんです。自然界の中にいるように、家の中で感じていただける空間っていうのが1階のコンセプト。

2階は打って変わって、非現実というか、仙人が住んでいるような世界を取り入れたいと思いました。琳派をテーマにして、ギャップを作ろうと考えたんです。

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蓄積したノウハウと今までにない工夫を融合

庭が屋内にあるのも珍しいですね。

木村:きっかけは植治さん。専務のご紹介です。超有名な庭屋さんと、せっかく仕事ができるから、あんまりやったことのないことがしたいなって。家の中で水が流れてるのって面白い。音と視覚と両方とも楽しめるし。偽物ですけど竹もあるから、竹林の中プラス水っていうのがいいなと。

音も考えられているのですね。

西村:スイッチを入れたら水が流れますよ。元々、植治さんは無鄰菴とか、左京区の岡崎周辺の庭園を手がけておられます。岡崎周辺っていうと、疎水から水引っ張ってるから、すごく大きないい庭ができる。庭園クラスを、代々維持管理されてる家柄なんですよね、植治さんっていうのは。

ここの息子さんと、偶然知り合うことができて、意気投合しまして。ちょっと、彼も変わったことやってみたい、代々やってきたことと違うことをしてみたいっていうモチベーションがあって。

木村:植治さんからしたら、この庭はもう論外ですよね。かなり規格外れ。

西村:彼は植治さんから独立されて、御庭植治っていう、別会社を作られています。彼の中で、ちょっと飛び出してみようというのがあったんですね。

木村:普段はこういうのほとんどやらないでしょうね。

 

株式会社御庭植治(外部サイト)

 

今までの京宿家にはなかった工夫がいろいろあるようですね。

木村:高額宿であることと、八清が保有できるということで、いろいろ試すことができました。お風呂を少し大きくしたとか。こういう作り方すると、たぶんランニングコストもかかります。でも、それに見合った1泊の料金が取れれば、その分ペイもしやすいですし、お風呂は印象に残るところです。内風呂にしても、なんかいいなって思えるほうが楽しめるかなと思います。

くつろぐために、家全体をシンプルにしています。飾っているのがこういう絵なので、金色とか黒はいいですけど、赤とか青とか目立つものを持ってくると、絵が死んでしまいます。絵を見せるというのが、一番の目的で、シンプルに作るという考え方でやりました。

茶室が変わっていますよね。畳が光るとか...

木村:LEDが仕込んである畳なんです。今までも使ったことがないし、こういう商品もあるっていうのを見てもらえたらいいかなっていうのもあって。

西村あと、壁が鉄やったよね。

木村:やっぱり光っていうのは、暗い中にパッとつくと綺麗なので。今回、鉄を結構使っています。階段も鉄で作っているし、玄関を入ったところのカウンターも鉄です。鉄を使おうと思うと加工してもらうのにお金がかかる。でも、見たことのないものが見られるっていうほうが価値はあるかな。

西村:素材的にも古びていくことで味わいが出るとこもあるかもしれないし。わびさびやね。

木村:せっかくやるなら、八清ってこういうこともできるんだっていうのもやっぱり見てもらいたい。こういう物件もできるんやねっていう、モデルルームみたいな感じかな。お客さんが、こういうセカンドハウス作りたいと思ってくれはったら、面白いなと思ってて。普通の販売住宅より、ちょっと変わったかたちのものも作っていったほうが、バリエーションが増えて面白いかなあと思うので。

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西村:あと、普通の宿って、もうやりきった感があって。100平米の中でできることって、まあやってきたかなと。宿泊料も、やっぱりブレイクスルーが必要かなと思ってて。2人泊まって4万、5万って いうところのラインから、一皮むけて10万っていうラインまで行くことが、経営的にも必要やね。京都の土地も高額化してるから、不動産としての取得コストもかかるし、それに見合う商品作っていかないといけないから。

さまざまな分野のプロが 関わる面白さ

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設計する上で大変だった部分はありますか?

木村:設計は大変じゃないです。設計は大変じゃないですけど、うちの専務のわがままのほうが...。これを使え、あれを使え、こういうなんがほしいな。こういうなん見せたいな。後出しが多いんで(笑)

西村:本当はスタート時点に全部揃ってないといけないけどね(苦笑)やっていく中で、面白い協力者が見つかることが多かったので。ご迷惑をかけましたね、そこは 。

木村:でも、今まで関わりのない人といろいろ仕事できたのは、すごく面白い。

西村:面白いね。設計士っていう1つの建築をやってはるプロフェッショナルとの提携は今までたくさんあったけども。そうじゃないカテゴリーの人たち。例えば、デジタルアーカイブを扱う人もそうだし、老舗の提灯屋さんに、書道家さん、日本画家さん、陶芸作家さん。さらには、 光の照射によるプロジェクションみたいなものもこの宿のアート体験に取り入れています。

 

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神坂雪佳」の金魚玉図を利用した照明

 

西村:お二階は、友禅織のファブリックが内装材になってるんですけど、それを指揮してくれる人がいたり。

木村:友禅とか、なかなか伝手がないとうまいことできない。今回、カケハシさんがいろいろ段取りして、たぶん、かなり交渉しはったでしょうしね。たぶん、プロから見たらこういうやり方しないよっていうことを結構やってるんで。職人さんは始めはたぶん「うーん」と感じたと思いますよ。絵の使い方とか組み合わせ方っていうのが、基本ではないので。でも、それをやっていく中で、面白いねって言ってくれはったんは良かったかな。

西村:呉服とか、繊維業界は分業システムで、何社も何社も入ってくるでしょう。それを単純に、職人さんと直接交渉して、中間業者さんが入らないようなかたちでやっていったんです。それで面白かったなと。

木村:そうやって八清が、職人さんの腕があるのに使ってもらえないっていうものを活性化できたら面白いですよね。

西村:そうね。

先ほどお名前が出たカケハシさんは、どういう部分に関わっているんですか?

西村:カケハシさん自体は、京刺繍という伝統的なお仕事をされてるお家柄なんですけど、デザイナーで、何でもできる人なんです。寝室のバックに張り付けてるんですが、おぼろ月夜みたいなのを一つ作ろうっていう、イメージを僕らは持ってて。彼がディレクションして、職人さんの指揮を執ってくれて、友禅のいろんな技法を使った琳派のイメージパターンみたいなのを作ることができたんです。

 

有限会社かけはし(外部サイト)

  

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いろんな工夫がされていますが、お客さまにはどういうふうに楽しんでいただきたいですか?

西村:日本画に興味ある人にはいいなと思います。でも、ただ単に綺麗やね、ぐらいで来てくれる人も良いと思います。そんなに専門的な方でなくても自由に楽しんでもらいたいかな。


木村:触れるようにしてありますしね。普通ならガラス越しとか、コーティングされていたりとか、遠いところに置いてあることが多いです。復元でもコピーでも、触れるっていうのは少ないと思います。せっかく来てもらうなら、ちょっと触れたりとか、近くで見れるっていうのがいいかなと。

今後の宿泊事業の展望、これからの京町家は・・・?

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宿泊料金を、通常の京宿家よりかなり高額に設定されていますよね。

西村:そうですね。今までやってきた経験で、稼働率がいいっていうことは施設・設備の消耗も激しいことがわかりました。付加価値が高いもの作って、稼働率は5割でもいい。それぐらいでも、大事に使ってもらえるほうが宿にとってはいいかなと思います。高く設定しといて、稼働率はちょっと低めで、ある程度収益が上がるっていう、そういうモデルが作れたほうがええのかなと。

木村:これが通用しないと、町中のいい町家は残せないというところも会社としてはあると思います。これが成功して、ある程度の利回りが取れるんであれば、1億、2億っていう総額のはった宿でも収益物件として買ってもらえる。100平米超えた町家でも残せて、京都の町並みがちょっとでも保全できるっていうのは、いいことじゃないかなあ。

やっぱり、一棟貸しでうまくやろうと思うと、地域と共存しないといけないです。 一番いいのは、泊まりに来はった人が、その町内の人と仲良くやってくれはるとか。そういうかたちで、この宿が町内の人からも受け入れられるほうが、たぶん今後の一棟貸しの宿っていうのは、もっと作りやすくなると思うんですよ。

「民泊は悪」みたいに思ってる人が多いんですが、いろんな人と関われるとか、お互い勉強になるとか、そのことによってその地域自体が面白くなって、いろんな人を受け入れてくれて、泊まった人がセカンドハウスを買ってくれはるとか、そういうのが増えていけば町家は残るやろうし。


西村:宿の企画設計が得意な他の社員が、また違った見方のアートの宿っていうのを作ってくれたら盛り上がるかなと思うんですけど。一棟貸しの場合は、サービスの少ない部分を、宿泊以外の体験での価値付けができて面白くなっていけば、常駐者の いる宿にも肉薄できるかなっていうふうに思います。近くに人がいて、すぐに飛んで来れるっていう体制ができたらいいけど。一棟だけでは、なかなか人件費の兼ね合いでできないですよ。3棟並んでたりとか、4~5棟並んでたらちゃうわね。

木村:1ブロック買えたら面白いんですけどね。何とか横丁みたいに。

西村:あと、展望としてはもう一つあります。不動産業のポジションが得意な八清が旅館業と住宅販売業と融合を考えた試みとして旅館業施設の所有権を一週間単位で販売するタイムシェア事業の構想を練っています。八清はこのタイムシェア事業を京町家で行う予定で具体的な開発計画を策定しているところです。

木村:京町家の不動産小口化の感覚とも近いですね。

西村:そうね。お手軽にセカンドハウスが購入できるという意味では本業である不動産業のゲートウェイにもなる事業で、今後が楽しみです!

タイムシェア事業について

 

 

――ありがとうございました。

今春のオープンを目指して、最終調整の段階に入った「凛葩」。多くの方に「自然」と「非日常感」を表現したアートを楽しんでいただければと思います。

 

 

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<専務取締役 西村直己>
跡取りとして修行中の彼は、自他ともに認める八清随一のエコノミスト。近頃はもっぱら社内改革に勤しみ、さまざまな案件を論理的に分析し、皆を力強く先導する。食事を科学し健康にこだわる彼は2人の愛娘にメロメロ♪

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<暮らし企画部 木村隆一>
八清の中では少々やんちゃ系の彼。しかし、こと建築に対しては人一倍貪欲に取り組み、特に伝統建築には深い見識を持つ。自他ともに認める話ベタで、接客は修行中だが、彼の人柄にはまるお客さんも少なくない。